浜口奈津子「テニスボーイは憂鬱」(『探偵は恋をしない』収録)

探偵は恋をしない (ジュディーコミックス)

探偵は恋をしない (ジュディーコミックス)

初出:『NIGHT Judy』(2005年)
単行本(『探偵は恋をしない』):小学館ジュディーコミックス(2005年)


 「BAD GIRLにきいて」「天使なんかいない」の浜口奈津子が『Judy』で描いた短編作品。単行本としては『探偵は恋をしない』に収録(同時収録は他に「憎い人」「甘い毒」「ファーストボーイ」の三本)。ちなみに、表題作の中でも回想シーンの中で一瞬だけテニスラケットを持った少年達の姿が描かれており、作者のテニスへの愛着の深さが伺える。
 主人公は、職場の同僚に婚約破棄れたことが原因で会社をやめ、家庭教師として生計を立てている28才の緒方由似(ゆに)。彼女の担当生徒は、16才で世界ランク81位にまで達したテニス界のアイドル・三木翔(かける)。当初、由似にモーションをかけてくる翔のことを軽くあしらっていた彼女であるが、やがて彼女の前に元彼が現れたことで、徐々に二人の関係に変化が生まれていく、という物語。
 前述の通り、作者は他にもプロのテニス選手を題材とした作品を描いてきたが、本作品はその中でも最もテニスの割合が低く、回想シーン(?)で若干テニス姿の翔が描かれるのみであり、試合の場面は一切登場しない。一方で、さすがにレディコミ誌だけあってベッドシーンは最も濃厚に描かれている。単行本内で作者は「触らぬ男に価値はなし」「男と女はからんでこそ色っぽい」と述べているが、その意味でまさに今の『Judy』こそが彼女の本領を最も発揮出来る雑誌と言えよう。
 物語全体の評価としては、やや終盤の展開が唐突すぎる感はあるが、まぁ、普通に楽しめる作品だと思う。前のレビューでも書いた通り、やはりこの人は「年下の美少年」との関係を描くのは非常に上手い。
 最後にどうでもいい話を一つ。テニス漫画にはなぜか「翔」という名前のキャラは多いが(飛鷹翔、高見沢翔、真柴翔、天羽翔)、いずれも読み方は「しょう」であり、「かける」と読むのは非常に珍しい(サッカー漫画なら「大地翔」がいるが)。本作品の主人公もそうだが、この単行本内には変わった名前のキャラが多いことから察するに、この人はネーミングには何か独特のこだわりがあるのかもしれない。