水島新司『おはようKジロー』

連載:『週刊少年チャンピオン』(1989-1995年)
単行本:秋田書店チャンピオンコミックス(1989-1995年) 全29巻


 『ドカベン』『あぶさん』『野球狂の詩』など、数々のヒット作を生み出した野球漫画界の第一人者・水島新司が、チャンピオン誌上で描いた高校野球漫画。作者は漫画家生活50周年を迎えた今もなお、上記の三作品の連載を精力的に続けている。
 主人公は、冠高校(千葉県)の一年生・岡本慶司郎(通称:Kジロー)。野球部に入部して甲子園出場を目指す筈が、既に野球部が三年前に廃部となっていたことを知り、やむなく様々な運動を回って有力選手を掻き集め、新たに野球部を結成することを目指すことになる、という物語。そしてその中の一人として、テニス部の二年生エース・沢村徹が登場し、野球部入部を賭けてKジローとテニス勝負を繰り広げることになる。
 野球部出身の主人公がテニスに転向する、というパターンは非常に多いが、その逆は意外に珍しい(他作品では『プリンセスナイン』くらいか)。しかも、大抵のテニス漫画では「強打者」がテニスのパワーヒッターとなるパターンが多いのだが、本作品ではKジローは沢村のサーブのフォームを見た上で「投手」としてスカウトするのである(その後、右翼にコンバートされるのだが、それはそれで彼の「肩」を期待されているという意味では同じ理由である)。まぁ、沢村は打者としても五番(Kジローの直後)に配置されているので、どちらにしても「テニス=比較的野球に近い技術が必要なスポーツ」と認識されているということなのだろう。
 ちなみに、本作品は知名度こそ低いが、意外にファンの間での評価は高く、特にこの序盤のチーム結成までの「他種目対決」のくだりの物語はなかなか秀逸である。ただ、Kジローがあまりにも万能すぎる点がやや興醒めするのも事実であるし、物語終盤をかなり駆け足で終わらせてしまったことへの批判も多い(これは、『ドカベンプロ野球編』を始めるための措置とも言われている)。
 一応、物語世界としては『ドカベン』とリンクしているようなので、いずれ今の『スーパースターズ編』にKジローが登場する可能性もある。その時のために、今から古本屋で本作品を探して予習しておくのも良いだろう。