伊藤正臣「伝説の男マネ さるたひこっ」

初出:『週刊少年チャンピオン』(2007年)
単行本:未発売


 『週刊少年チャンピオン』の第65回新人まんが賞受賞者である伊藤正臣のデビュー作となった読切で、同誌の2007年第18号に掲載された。作者はその後、「東京Hocus Pocus」や「恋愛成就ツアー なみのり」などの読切作品を発表した後、今年は短期集中連載として「ツギハギ生徒会」を同誌に掲載し、同誌の次世代を担う存在としての期待を各方面から集めつつある。
 主人公は、私立厳黒(ガングロ)高校に通うバナナ大好き少年・猿田彦。校風の緩みきったこの高校において、彼がマネージャーを務めた部活は、どんな弱小部でも大会で優勝出来るほどの力を得るという噂が流れており、その噂を信じた女子テニス部員・ナオが、同部の一員であり堕落しきってしまった友人のチカを立ち直らせるために猿田彦に男マネ(男子マネージャー)になってもらうことを要請する、という物語。
 猿田彦はその名の通りの猿のような外見で、全体的に頼りなく、なぜ彼がマネージャーを務めることが部活の実力向上に繋がるのか、という点が本作品の最大の見所というかオチなのだが、最終的にその結論が推測的な形でしか述べられていないため、やや消化不良感が残る。ただ、コメディとしてはそれなりにテンポよく描かれていると思う。
 絵柄にはややクセがあるが、個人的には嫌いではない。ただ、テニスの場面(?)の描き方は正直言って微妙であるし、「そもそもこの人、ツイストサーブの意味分かってんのかな?」と首を傾げたくなるような演出もあるので、「テニス漫画レビュー」的には、あまり評価出来ない。とはいえ、「ガングロ女子のダベリ場と化したテニス部」という設定は、それはそれでリアルなのかもしれないが、従来のテニス漫画で描かれなかったタイプという意味で、それなりに面白いと思う。
 せめて短期集中連載として描いてくれた方が、各キャラの魅力は伝わったと思うのだが、あっさりと次回作以降で全く違う作風に転換してしまったので、おそらく評判はあまり良くなかったのだろう。そして、秋田書店はよほどの人気作家にならない限り、この種の短編を単行本化することはないと思われるので、あえてまだ単行本化する可能性が残っているにも関わらず、このタイミングで紹介させて頂いた次第である。