前原滋子『たとえば彼とわたし』

たとえば彼とわたし (フレンドKC)

たとえば彼とわたし (フレンドKC)

初出:『週刊少女フレンド』(1979年)
単行本:講談社KCフレンド(1980年) 全1巻


 『B♪G♪Mはいらない』や『杏&影』シリーズなどで有名な前原滋子が『週刊少女フレンド』誌上で描いた初期の短編(掲載時は前後編)作品。その後、「花の大学のまんなかで」「恋歌3・3・7拍子」と共に一冊の単行本としてまとめられた。以前は本作品のような短編が多かった作者だが、近年は長期(九年以上)連載となった『永遠の誘惑』を『BE-LOVE』誌上にて執筆中。
 主人公は、高校三年生の斉藤琴美(さいとう・ことみ)。同じテニス部の仲間の生方瑠璃(うぶかた・るり)、男子テニス部の真柴比呂樹(ましば・ひろき)、そして真柴の友人の神本芹(かみもと・せり)の四人で、卒業を前に「気楽にフランクに」をコンセプトにグループ交際をすることになる、という物語。四人の恋愛感情がそれぞれに絡み合い、変化を遂げていく様子が描かれていく。
 主要登場人物のうちの三人がテニス部という設定ではあるものの、テニスの試合が描かれる場面は一度もなく、序盤で練習風景が何度か登場する程度に過ぎないので、テニス漫画としては特に特筆すべき点はない(ちなみに、芹はサッカー部らしい)。ただ、冒頭の琴美と瑠璃のテニスシーンは、「ただの背景設定」として描いたテニス部の風景にしてはきっちりと描かれており、それが本編に生かされていないのはやや勿体無い気もする。
 物語自体は、当初はややカルいノリで始まったグループ交際が、思わぬ形でハードな方向へと展開していく様子が描かれており、物語の密度も濃く、純粋にストーリーとしては面白い。ただ、二組のカップリングが成立する際の(特に瑠璃の側の)展開がやや唐突な印象もあるので、100頁の物語としては、少々詰め込み過ぎの感もある。
 なお、最後の結末においては、「まぁ、この時代の少女漫画としては、この形で幕引きさせるのが適切なのかな」と思わせる内容であり、おそらく今日の少女漫画雑誌においてこの種の作品を掲載する場合は、また違ったラストを容易させられることになると思う。そういった意味でも、今となっては味わうことの出来ない、この時代独自の雰囲気の漂う作品と言えよう。