細川知栄子「野ばら咲く道」(『あこがれ』第5巻収録)

あこがれ 5 (講談社コミックスフレンド)

あこがれ 5 (講談社コミックスフレンド)

初出:『週刊少女フレンド』(1975年)
単行本:講談社フレンドKC『あこがれ』第5巻(1986年)


 少女漫画史上屈指のロングヒット作品『王家の紋章』(秋田書店『プリンセス』にて連載中)の作者である細川智栄子が、まだ「細川知栄子」名義だった時代に『週刊少女フレンド』にて描いた短編作品(初出は、『王家の紋章』の連載開始よりも前)。単行本としては、『あこがれ』の第5巻(最終巻)の巻末に収録。
 物語は、高校二年生の主人公・高村美香子が、母の結核による入院により、代わりに三人の弟達(一郎・二郎・三郎)を養っていくため、学校を退学して社会人として働くことを決意するところから始まる。退学に関しては既に割り切っていた彼女であったが、唯一の心残りは、毎日通う野ばらの咲く道の片隅のテニスコートで見かけていた一人の美青年・小林学のこと。「野ばらのきみ」と名付けた彼への想いを断ち切ろうと決意しつつ、母の務めていた「音羽出版社」に就職して、様々な失敗を繰り返しながら、必死に生きていく彼女の姿が描かれている。
 まず本作品の特筆すべきところは、そのあまりのハイテンションな演出と、最初から最後まで急転直下の物語展開である。全体で40頁の作品なのだが、あまりにも密度の濃い内容で、一コマでも読み落とすと物語が分からなくなるほどに凝縮された作品である。これは、まだ漫画の文法が今ほど確立されていなかった時代だからこそ許された手法であり、おそらく今のメジャー誌では、このようなコマ構成は許されないだろう。
 そのような構成であるが故に、本作品の中での「テニス」の位置付けもほんの僅かな描写に留まっているが、これは作品の性質上、やむをえぬことであろう。ちなみに本作品が描かれた1975年はまさに「第二次テニスブーム」の真っ最中であり、「テニス」が青春の代名詞のように用いられていた世相を反映した描写と言えよう。
 正直言って、画風も展開も、今読むと「おいおい」と言いたくなるのは否めないのだが、上記のような時代背景を踏まえた上で、これはこれで一つの様式と割り切って楽しむのが適切であろう。