武内直子「7月(ジュライ)マーマレード・バースデー」(『ミス・レイン』収録)

ミス・レイン (講談社コミックスなかよし (750巻))

ミス・レイン (講談社コミックスなかよし (750巻))

初出:『なかよし』(1989年)
単行本:講談社なかよしKC『ミス・レイン』(1993年)


 『美少女戦士セーラームーン』で一世風靡した武内直子が、大学卒業直後に描いた初期の短編作品。単行本としては『ミス・レイン』に収録(同時収録は「ぼくのピアス・ガール」「まいごのスウィング」「いつもいっしょね」)。ちなみに、作者の夫は同時代に週刊少年ジャンプを牽引していた漫画家・冨樫義博。近年の作者の作品としては『とき☆めか』などが挙げられる。
 主人公は、高校一年生の女子テニス部員・森山みーな。彼女の16才の誕生日である7月5日に、彼女の下駄箱の中にマーマレードの瓶が入っていることを発見するところから物語は始まる。そのマーマレードの送り主の候補として、彼女の幼馴染みで喧嘩友達の甘利と、そのマーマレードを売っているケーキ屋でバイトしている塚本先輩の二人が浮上するものの、真相が分からないまま物語は高校テニス大会へと進んでいくことになる。
 一応、主要キャラは全員テニス部員なのだが、テニスの場面は極めて少なく、あくまでも普通の「不器用な高校生の恋愛漫画」として読むのが適切である。また、物語のクライマックスにおける試合は、常識的に考えれば「そんなことする訳ないだろう」という展開ではあるのだが、あまりその点も気にならない流れに仕上がっているのは、やはりこの漫画の主眼が「テニス」には置かれていないが故だろう。
 ただ、この作品は作者自身の学生時代の恋愛体験に基づいており、当時の作者の想い人もまたテニス部員だったらしい。そのせいか、あまり物語的には必然性のない場面でも「テニス部」を感じさせる描写は多く、物語本編にはあまり絡まないにせよ、テニス自体への作者の個人的な思い入れの強さは感じ取れる。
 なお、余談だが本作品に登場する、名前も持たない某キャラは、実はアニメ版セーラームーンの虹水晶編(ゾイサイト編)で登場した「クレーンの丈」のモデルと言われており、またこの単行本の表題作のヒロインはセーラー戦士の一人に酷似している。他にも、様々な点で後のセーラームーンの原型と呼ぶべき要素が鏤められているので、そのような観点からこの単行本を読んでみるのもまた一興と言えよう。