樹村みのり「40-0」(『カッコーの娘たち』収録)

カッコーの娘たち (ソノラマコミック文庫)

カッコーの娘たち (ソノラマコミック文庫)

初出:『mimi』(1977年)
単行本:講談社コミックmimi『カッコーの娘たち』(1977年)
    講談社漫画文庫『マイダイヤモンドロマチックLOVE』(2004年)
    朝日ソノラマコミック文庫『カッコーの娘たち』(2006年)


 「贈り物」や「菜の花畑のこちら側」などの名作を残し、「花の24年組」の一人にも数えられる樹村みのりが、『mimi』に掲載した短編作品。単行本としてはmimiコミックスの『カッコーの娘たち』に最初に収録され、その後も様々な媒体で再録されている(最新の朝日ソノラマ版では、表題作の他に「晴れの日・雨の日・曇りの日」「砂漠の王さま」「夜の少年」「Flight<飛行>」が同時収録されている)。
 主人公は、ウィスコンシンの大学町に下宿する青年・アーサー・ノーマン。大学の友人の誘いで、小中学生の女の子達のテニスコーチを引き受けた彼は、急ごしらえのコートの整備をしつつ生徒達を指導していく過程で、その生徒達と揉め事を起こしている少女・フェンと出会うことになる。
 物語は基本的にアーサーのモノロ−グを通じて、「アーサーから見たフェン」の動向を中心に展開される。勤勉で誠実な好青年アーサーと、「奔放」と「屈折」という二つの側面を合わせ持つフェンという対照的な二人が、テニスというスポーツを通じて少しずつ距離を縮めていく過程が、テニスの技術論と共に丁寧に描かれている。
 この当時の少女漫画にはアメリカを舞台にした作品が多く、本作品も様々な点で当時のアメリカに生きる人々の息吹を感じ取ることが出来る。ただ、中西部のウィスコンシンの大学になぜ独立戦争時代の資料が眠っているのか、など、(本編には関係ないが)やや分かりにくい箇所もあり、その辺りの説明もあればもっと自然に物語に入り込めただろうに、とも思う。
 アーサーは非常に感情移入しやすい主人公であり、彼のフェンに対する感情の変化の過程も素直に受け入れられる。モノローグ中心の作品は主人公の人柄が作品の魅力に大きく左右するだけに、その意味では本作品は極めて読みやすい高い内容であり、短編作家として今なお高い評価を得ている樹村みのりの魅力を再確認出来る作品と言えよう。