岸裕子「おれの嫁さん」(『11月物語』収録)

初出:『別冊少女コミック』(掲載年不明)
単行本:スタジオ・シップ・ポケットコミックス『11月物語』(1978年)


 「玉三郎」や「夢の介」シリーズなどで有名な岸裕子の短編作品。別冊少女コミックに掲載された後、スタジオ・シップの手で「岸裕子 読切短編傑作集」として発行された『11月物語』の中に収録された(なお、朝日ソノラマ版の同タイトルの単行本には本作品は収録されていないので、注意)。同時収録は、他に「やさしい風」と「お嫁にもらって!」。近年の作者は代表作である『銀のジーク』の続編を同人誌として出版中。
 主人公は、緑が丘学園高校二年一組の由布子(通称:ゆう/苗字は不明、ただしイニシャルは「K」らしい)。彼女の幼馴染みの長田総司(おさだ・そうじ)はかつてはガキ大将で、いつもゆうが世話を焼いていたのだが、今やサッカー部のエースのエースとなり、クラスの女の子達の憧れの的となったことで、徐々にゆうとの関係も希薄化しつつあった。ゆうはそんな総司との関係の変化に違和感を感じつつ、それでも何とか総司の役に立とうと、憎まれ口を叩きながらも彼のために尽くそうとする。
 この作品がなぜ「テニス漫画レビュー」の対象となっているのかについては、実は物語の終盤にならないと分からないので、ネタバレを避けるために詳細は割愛する。ただ、実質的なテニス描写はほぼ皆無なので、「テニス漫画としての何か」を求めて読む必要は全くない、ということだけは断言しておこう。
 個人的に興味深かったのは、ゆうと総司のモノローグが交互に展開されている点である。短編作品でこのような複合的な視点の導入することは珍しいと思うのだが、それによって両者のすれ違いの構造をより明確に読者に伝えることに成功している。ただ、逆にそのことが中盤までの展開を単調にしている側面もあり、その反動か最後のオチがあまりに唐突で、やや拍子抜けしてしまうのが難点か。
 残念ながら単行本に初出年が書いていないのだが、絵柄から察するに、かなり初期の作品ではないかと推測される。入手も困難なので、それほど無理してまで手に入れるほどの話でもないが、同時収録作品にはもっと面白い話もあったので、この人の作品が好きな人なら買い、かな。