伊達憲星(原作)/たかみね駆(漫画)『プリンセスナイン 如月女子高校野球部』

プリンセスナイン如月女子学園野球部

プリンセスナイン如月女子学園野球部

単行本:NHK出版テレビコミックス(1998〜1999年) 全3巻


 1998年にNHK・BS2の衛星アニメ劇場内で放映された少女野球アニメのコミック版。当初から単行本描き下ろし作品として作成されたため、雑誌掲載は無し。作者のたかみね駆(かける)は『まんがパロ野球ニュース』(竹書房)などで野球四コマ作家として活躍し、代表作の一つである『きまぐれMVP!』は本作品と同時期にNHK出版から発売された。近年はニンテンドーDSゲーム『くるくるプリンセス』のコミック版などで活躍中。
 主人公は、女子中学生ながら地元の草野球のエースとして活躍する早川涼。母子家庭故に、高校には進学せずに母親の経営する居酒屋を手伝おうと考えていた彼女が、如月女子高校の理事長の目に止まり、新設の硬式女子野球部の特待生として招かれるところから物語は始まり、彼女を中心として九人のメンバーを集めて甲子園への道を目指していく過程が描かれる。
 そして、本作品において涼の最大のライバルとなるのが、理事長の娘であるテニス部のエース・氷室いずみである。彼女の極端なまでの縦ロール髪は明らかに竜崎麗香へのオマージュであるが、そんな彼女が野球への転身を決めるまでの経緯は、まさにスポ根の王道とも言うべき実に劇的な物語に仕上がっている(ちなみに、序盤では彼女と涼がテニスで対決する場面も描かれている)。
 ただ、野球漫画として見た場合、強肩の軟式野球経験者を左翼、野球経験ゼロで最も守備が下手な少女を右翼に置くという、明らかに一昔前の(もしくは草野球の)セオリーに基づいた配置になっているなど、現代の高校野球で甲子園を目指そうとするチームとしてはあまりに不自然な点が多い。一応、漫画版では作者の判断により二塁と中堅を入れ替えたのでアニメ版よりはマシになっているが、個人的には一塁と三塁も含めて、もう少し常識的な守備位置に変更してしまっても良かったのではないかと思う。
 とはいえ、全体的に短い頁数の割には野球の試合描写は秀逸であるし、九人の個性もしっかりと表現されているので、それなりの良作ではあると思う。まぁ、正直なところを言うと、私自身は『無敵のビーナス』派なのだが、全体的な「まとまり」という意味では、こちらの方が上かな、という気もするしね。