『萌子 がんばります!』

初出:『ザ・マーガレット』(1984年)
単行本:集英社創美社)マーガレットレインボーコミックス(1985年) 全1巻


 13才でデビューし、後に『19』『B.B.フィッシュ』『ホットマン』などで名声を轟かせることになるきたがわ翔の、少女漫画家時代の短編作品(本作品執筆時は高校二年生)。作者の最初の単行本の表題作に選ばれ、他に「カゲキにすくーるデイズ」「すこしブルーなシーズン」「スローなラブリーディ」「里美ちゃんはふくれっつら」「番長くんはごきげんななめ」の五本の短編が同時収録されている(なお、「すこしブルーなシーズン」にも一瞬だけテニスの場面が登場する)。
 主人公は、東高校2年でテニス部員の小西萌子。五年前に交通事故で両親を亡くして以来、兄と二人暮しを続けている彼女であるが、家事は基本的に兄任せで、テニスの腕もなかなか上達せず、そんな自分に微妙な嫌悪感を感じながら学校生活を送っていた。そんな彼女が、ふとしたきっかけからテニス部の先輩である瀬川裕二と親しくなり、彼との交際を目指して、色々と奮起することになる、という物語。
 全体的にやや唐突な展開が多く、特に終盤の重要な局面での萌子のテニスの試合などに関しては「それでいいのか?」と言いたくもなるのだが、このような形で80年代独特の「まったり感」が漂う作風は、個人的には嫌いではない。
 また、萌子・兄・瀬川の三人のモノローグを交差させていく構成は、ストレスなく読者を作品世界に引き込める反面、各人の感情をストレートに読者に伝えてしまうため、意外性のあるラストを演出することが困難な作風でもあるのだが、最後の最後で全く予想もしていなかった方向からの「え? それで終わりでいいの?」と言いたくなるようなオチが待っているため、やや呆気にとられながらも、どこか心地良い読後感に包まれる。
 当時、高校生だった作者がどのような心境で本作品を描いていたのかは定かではないが、男性キャラの側の視点を取り入れた上で、きっちり少女漫画として仕上げている点は見事である。「純情で正直者な王子様」としての瀬川君は、男性から見ても好感が持てるし、おそらく当時の作者の素直な感性で描いた好青年像なのだろうね。