河下水希「初恋限定(リミテッド)。」

初恋限定。 1 (ジャンプコミックス)

初恋限定。 1 (ジャンプコミックス)

連載:『週刊少年ジャンプ』(2007〜2008年)
単行本:集英社ジャンプコミックス(2008年) 全4巻


 『いちご100%』で有名な河下水希が、同作品の連載終了後に描いた作品。作者は、当初は「桃栗みかん」の名で集英社の『オフィスユー』でBL漫画家としてデビューし、やがて『ぶ〜け』に移って少女漫画家に転身した後に、改名して『週刊少年ジャンプ』に移籍したという、異色の経歴の持ち主。本作品終了後は『ジャンプスクエア』にて短編「曽根崎心中!」を掲載している。
 本作品には明確な主人公は存在せず、軸となるのは5人の女子中学生と3人の女子高生、そして彼女達を取り巻く男性陣である。毎回、異なる人物に焦点があてられ、それぞれの視点からの「初恋」が描かれることになるのだが、その主要キャラの一人として、テニス部所属の土橋りかの恋物語が、第5話と第15話を通じて描かれている。
 土橋は8人の少女達の中で一番最初に彼氏を獲得してしまったせいか、相対的に出番が少ない。また、彼女の主役話においても、常に彼氏の側の視点で描かれている上、彼女自身が恋愛感情を滅多に表に出さない性格なので、彼女の恋愛観や彼氏への想いが今一つ読者に伝わりにくい。しかし、だからこそ、極稀に垣間見える彼女の「本音」の描写が実に印象的であり、それが彼女の独特の魅力を引き出しているとも言える。ちなみに、私の本命も彼女である(次点は千倉妹)。
 テニスの場面は第5話で若干描かれる程度であり、ほぼ皆無に等しい。ただ、一般に学園漫画における「テニス部員」の大半が(優雅or軟弱なイメージのせいか)色白に描かれているのに対して、あえて土橋を作中唯一の褐色肌キャラとして描いているのは、屋外スポーツとしてのテニスを現実を理解した上での描写と言えよう(彼氏の方は無トーン肌だが、これは運動部員としてのキャリアの差、ということで)。
 10人以上の男女の視点を取り入れて物語世界を複合的に描くという挑戦的な作風故に、個人的には非常に期待していたのだが、話が複雑すぎたせいか本誌での人気は奮わず、僅か4巻で終わってしまった。しかし、なぜか打ち切り直後にドラマCD化とアニメ化の話が進行したことからも、私を含めた一部のファン層には強く支持された作品でもあったことは明らかであろう。