吉住渉「グリーン・エイジ」(『ハンサムな彼女』第9巻収録)

ハンサムな彼女 (9) (りぼんマスコットコミックス)

ハンサムな彼女 (9) (りぼんマスコットコミックス)

初出:『りぼんオリジナル』(1991年)
単行本:集英社りぼんマスコットコミックス『ハンサムな彼女』第9巻(1992年)


 『ママレード・ボーイ』や『ウルトラマニアック』の作者である吉住渉が、これらの作品よりも前に『りぼんオリジナル』で描いた短編作品。単行本としては、作者の初期の代表作である『ハンサムな彼女』の最終巻に収録されている。近年の作者は『コーラス』を中心として活動しつつ、宙出版の『マリエ』にも描き下ろしイラストを発表している。
 物語は、高校に入学したばかりの旗野実可子が、中学時代に付き合っていた油井直規の双子の弟・哲朗と遭遇するところから始まる。二人は揃ってテニス部に入部することになるが、直規にフラれた実可子としては、同じ顔の哲朗を見る度にそのトラウマが蘇ってきてしまう。しかし、落ち着いた直規とは正反対の陽気な哲朗と接しているうちに、徐々に兄とは異なる彼自身の魅力に気付いていくことになる。
 哲朗は直規に比べてやや髪が長く、その点が二人を区別する記号となっているのだが、実可子が「その暑苦しい長髪とヘアバンド、もしかしてA・アガシを意識してる?」と聞いたのに対して、哲朗が「ピンポーン! おれアガシの大ファンなんだ。なんか共感覚えるんだよなー」という答える場面があり、その後のアガシの髪の変遷を考えると、ちょっと笑える。そして更にこの後も続く二人の会話が、当時のテニス界を反映した内容で実に面白い。ちなみに、実可子は「女子だったらねー、グラフが好き」と話している訳だが、まさかこの二人が結婚することになるとは、当時の作者も予想出来なかったであろう。
 また、テニス自体の場面に関しても、頁数自体は少ないが、その中での描写や会話の中にも、明らかに「テニスを知ってる人でなければ理解出来ない面白さ」が組み込まれており、まさにテニス部出身の作者の面目躍如と言える内容である。というか、ホントはもっと本格的にスポーツ漫画描けるだけの才能があるのに、恋愛作家としての人気の高さがそれを妨げてしまっていると思うと、非常に勿体ない気がする。
 そして実際、恋愛漫画としての本作品も非常に面白いのである。特に、最後の実可子と哲朗の台詞に代表されるような「ロジカルな恋愛描写」は、その後のママレにも通じる作者の「恋愛漫画家としての才能」が如実に現れた演出と言えよう。