篠崎まこと『8月のシンフォニー』

初出:『りぼん』(1976年)
単行本:集英社りぼんマスコットコミックス(1978年)


 『プレリュード-前奏曲-』(少女フレンド)や『ハロー理子』(BE LOVE)などの著者である篠崎まことが、『りぼん』の別冊付録「りぼんアイドル文庫」で描いた128頁の読切作品。単行本としては『篠崎まこと傑作集』シリーズの3巻目という位置付けで、表題作として収録された(同時収録は「ジャッキーおばさんの姪」)。
 主人公は、城南高校のテニス部の一年生・野沢潮里。テニス部主将・北原拓に憧れる彼女であるが、北原は同じテニス部の三年生・藍田陽子からもアプローチを受けている。一方、潮里の幼馴染みでバイオリン奏者である伊藤留王(るおう)は、そんな潮里のことを憎からず思っているが、彼の家族関係を巡る問題から、思わぬ形で北原との間で接点を持つことになり、それが彼等の恋模様を変転させることになる、という物語。
 正直言って、絵的には(時代性をさっ引いても)お世辞にも綺麗とは言えず、特に序盤は漫画としての「読みやすさ」という点でも難がある。ただ、本作品より数ヶ月前に描かれた筈の(単行本同時収録の)「ジャッキーおばさんの姪」を読む限り、クセは強いものの決して画力がない人ではないと思うので、スケジュール的にかなり無理して描いた作品なのかもしれない。また、元来は「10×15cm」の「りぼんアイドル文庫」を通常の単行本サイズで再販することで、絵的な粗が目立ってしまったという側面もあるだろう。
 また、冒頭や終盤などで若干描かれるテニスの場面に関しても、デッサン的に無理のあるコマが多い。ぶっちゃけた話、「動きのある絵」が描けないなら、無理してテニス部という設定にせずに、潮里や北原も何らかの文化部の一員として設定した方が、作品としての完成度も上がったのではなかろうか。でもまぁ、この時代(70年代後半)だと、やっぱり「テニス部」が一番花形だったのだろうね。
 ただ、物語自体は結構面白い。完全無比に見える北原の意外な一面が後半で明らかになる辺りからの急展開と、無理に全てを解決しないまま幕を閉じるラストの余韻などは、物語としての構成という意味では高く評価出来る。それだけに、絵的な問題で読者を遠ざけてしまう点が、余計に勿体なく思えてしまうんだよなぁ。