井出ちかえ「嵐のテニスコート」

連載:『りぼん』(1972年)
単行本:不明


 『テニスコートの道しるべ』の作者でもある井出ちかえ(知香恵/智香恵)が『りぼん』1972年11&12月号に前後編で描かれた100頁の作品。正確には未確認だが、おそらく単行本化はされていないと思われる。現時点での作者の最新の単行本は、文庫版の『源氏物語』(復刊)。
 主人公は、木曽の中学から京都の嵐山学園に転校してきたテニス少女・天竜巴。嵐山学園の女子テニス部は「姫君部隊」と呼ばれるほど華麗で優雅なプレイで有名で、巴の姉・水枝はその中でも「舞姫」と呼ばれるエース級の選手だったのだが、何かに取り憑かれたかのような様子で続けたテニスの猛特訓の結果、悪性の肩の腫瘍によって命を落としてしまう。姉を死へと追いやった原因を探ることを目的に姫君部隊に入った巴は、そこで姉の残した秘技「舞落し」の存在を知ることになる。
 巴のネーミングの由来はおそらく巴御前であり、他に紫式部清少納言をモデルにしたと思われるライバルキャラも登場する。他にも「京都」を連想させる要素は色々と取り入れられてるが、言葉遣いに関しては序盤で部分的に関西弁が使われている場面があるものの、基本的には標準語で会話は進展している(とはいえ、これは『はずんでイッキ!』などの他の関西を舞台としたテニス漫画にも共通する傾向である)。
 作品の系譜としては、作者の出世作『ビバ!バレーボール』の流れを汲む正統スポ根漫画であり、文字通り命を賭けた魔球を巡る激しい展開が楽しめる。特に、魔球の存在を前提とした上で、それをどう戦略に組み込むかで苦心する辺りの描写は、まさにトンデモ系スポーツ漫画の王道である。この翌年には、この種の魔球漫画へのアンチテーゼとしての『エースをねらえ!』が登場することを考えれば、少女魔球漫画の黄金時代の最後の世代の作品と言っても良かろう。
 正直、今の作者とは比べ物にならないほど絵も粗いし、色々な意味で「やりすぎ」な物語ではあるが、そのような暴走気味の内容こそがこの時代のスポ根の華でもある。ただ、最後の結末は(試合結果自体はあれで良いとしても)なんか今一つ釈然としない感が残るのだが、これも世代的な感性の問題か。