小泉志津男(原作)/風かをる(漫画)「涙はラケットでふけ!」

初出:『別冊少女フレンド』(1973年)
単行本:未発売


 70年代に集英社および講談社で活躍した風かをるの短編作品の一つ(原作は小泉志津男)。『別冊少女フレンド』1973年6月号に掲載された。作者が残した唯一の単行本は『平均台のビーナス』だが、本作品は未収録。なお、本名の「鈴木房子」で活動していた頃には「テニス巌流島」というテニス漫画を『別冊マーガレット』で発表している。昨今の作者の動向は-*-風かをるの青春時代-*-にて確認出来る。
 主人公は、大阪の高校に通うテニス少女・大西理加。彼女が高校総体の決勝で、東京に住んでいた頃からの親友・沢田久美子に敗れるところから物語は始まる。久美子は公式戦69連勝の実力者で、理加はいつも彼女に敗れているのだが、「久美ちゃんは天才だから」「テニスは楽しければいい」と考える彼女は、さほど悔しさも感じてはいない。しかし、久美子の兄でボクシングのフェザー級世界王者でもある健一は、そんな久美子の態度を「ひきょうだ」と断じ、もっと闘志を出すように促していく、という物語。
 恋愛漫画としては、理加と健一は最初から実質的に両想いの関係にあり、久美子もそのことを察してはいるのだが、二人の仲が進展していくのを見ながら複雑な心境になる久美子の描写などが面白い。まぁ、最初から上手くいってるカップルがそのまま幸せになるのでは、このようなタイトルになる筈もない訳だが……(以下、ネタバレなので自粛)。
 テニス漫画としては、「勝つためには、より攻撃的なテニスが必要」というのが重要なテーマとして設定されているのだが、具体的に理加のプレイスタイルがどう変わったのかについては、残念ながら説明不足に思える。ただ、四の五の理屈を並べるよりも、「闘志」や「迫力」という言葉でまとめた方が、テニスを知らない読者にはより説得力があるのも事実。その意味では、この時代のスポ根ならではの分かりやすさもある。
 大阪弁が微妙に中途半端だとか、ボクシング描写の方が集中線に気合いが入ってるとか、色々とツッコミ所はあるが、全体的にはよくまとまった短編作品だと思う。絵柄も割と好みなので、個人的には結構楽しめたし、出来ればもう少し多くの人に勧めたい作品だけに、単行本化されていないのが残念である。