水沢めぐみ『チャイム』

チャイム 1 (集英社文庫(コミック版))

チャイム 1 (集英社文庫(コミック版))

連載:『りぼん』(1989-1990年)
単行本:集英社りぼんマスコットコミックス(1989-1990年) 全3巻
    集英社文庫(2006年) 全2巻


 大ヒット作『姫ちゃんのりぼん』などで有名な、『りぼん』黄金時代を支えた人気漫画家・水沢めぐみが、同作品の直前に連載していた作品。旧単行本の全3巻は既に絶版だが、現在は集英社文庫から全2巻で再販されている。現在の作者は『Cookie』にて、『キラキラ100%』を不定期連載中。
 主人公は、私立桜坂学園中学校の3年生で、写真部に所属する立原朝子。4月の新学期の始業式に遅れそうになり、学校へと続く坂道を走っていた彼女が、同学年で陸上部の高野良介と出会う場面から物語は始まる。朝子は写真部の顧問の有馬一郎に片想いしているのだが、この新学期から彼が彼女と高野のクラスの担任となり、同じクラスには朝子の親友の本橋なみ子や、高野の親友の千葉拓郎も配属され、彼女達を中心とした恋と友情の物語が、1年間にわたって描かれることになる。
 最初に断っておくが、「テニス漫画レビュー」としてこの作品を取り上げるのは(『いるかちゃん』や『ヤサシイワタシ』以上に)反則技である。本編を通じて「テニス」という単語は何度か登場するし、主要(?)キャラの中にはテニス部少女も登場するのだが、本編ではテニスの場面自体は全く描かれていない。
 にも関わらず、強引にここで紹介させてもらったことには、純粋に「面白かったから」以外の理由はない。「恋と友情」は少女漫画の永遠のテーマだが、その両者をバランスよく描くことは存外難しい。その意味で、本作品における朝子&なみ子、高野&千葉の関係の描写は実に見事であり、特に初期はただの囃し立て役だった千葉が、後半に入ると物語の潤滑油として機能していく展開などは、ベタではあるが安心して楽しめる。過去の「写真」を巡る物語も、オチは見え見えなのだけど、それでも面白かったしね。
 まぁ、絵的には確かに今見ると古いが、今でもこういう「やわらかく、暖かい絵」が好きな人って、結構いるんじゃないかな。最近はすっかり絵も変わってしまったので、古い世代の人間としては残念なのだが、それだけ時代に合わせて作風を替えられる器用さこそが、長期にわたって第一線で活躍し続けられる要因なのだろう。