土居あおか「輝く光の向こう側」

初出:『ザ・マーガレット』(2006年)
単行本:未発売


 『ザ・マーガレット』や『別冊マーガレット』などで活躍する土居あおいかの短編作品の一つ。『ザ・マーガレット』2006年10月号に掲載されたが、現時点ではまだ単行本化はされていない(というか、土居あおか名義の単行本自体、まだ存在しないらしい)。
 主人公は、高校三年生の元女子テニス部員・梓(姓不明)。かつては全国大会に出場するほどの腕前であったものの、怪我によって引退を余儀なくされた彼女が、生きる目的を見失って町をさまよい歩いていた時に、路上絵師の響(フルネーム不明/男性)と出会うところから物語は始まる。過去から逃れようと苦しんでいた梓であったが、響の過去と現在の境遇を知らされることで、新たな道を模索するようになる姿が描かれる。
 「怪我で競技を挫折した主人公の物語」には2パターンが存在する。一つは「怪我を克服して競技に復帰する話」であり、もう一つは「全く異なる道へと進む話」である。上記の通り、本作品は後者の系統の話なのだが、最終的に彼女が選ぶ「道」が、彼女の過去を踏まえた上での選択になっているので、読者としても素直に彼女のその選択を受け入れることが出来る(実現するかどうかは今後の彼女の努力次第な訳だが)。
 テニス描写に関しては、過去の場面が若干描かれる程度であり、フォーム(ラケットの持ち方など)の描写も、正直言って微妙。まぁ、この人の場合、それほど「絵」で魅せるタイプの人ではないのかな、という気もするのだけどね。漫画としては読み易いコマ構成にはなってるし、嫌いなタイプの絵でもないのだけど、絵的な意味でそれほど推すほどの何かを感じる訳でもない、というのが正直なところ。
 まぁ、正直言って物語自体も別に意外性のある展開でもないのだが、話として綺麗にまとまっているので、全体的には悪くないと思う。あと、梓と響の間に「恋愛感情」を介さずに、純粋に「自分の将来に悩む少女の物語」に特化している点も、個人的には好印象。少女漫画に登場する男女だからと言って、必ずしも恋愛の話にしなくてもいいんだよね。その上で「もしかしたら、これを契機により親密な関係になるのかも」とほんの少しだけ読者に妄想させる余地を与えるくらいの話の方が、私は好きなのですよ。