くまがい杏子『空色アゲハ』

空色アゲハ 1 (少コミフラワーコミックス)

空色アゲハ 1 (少コミフラワーコミックス)

連載:『Sho-Comi』(2009〜2010年)
単行本:小学館フラワーコミックス(2009〜2010年) 全2巻


 『放課後オレンジ』や『はつめいプリンセス』などで有名な、くまがい杏子(きょうこ)が、『Sho-Comi』(2008年以降『少女コミック』から改称)にて描いた作品。単行本は全2巻にまとめられた。現在の作者は同誌にて『Stand UP』を連載中。
 主人公は、福岡県立太宰府西高校の新入生・蒼依あげは。彼女は10歳の時に東京のテニスコートで、彼女と同い年の天才テニス少年・榊猛(たける)のプレイを目撃して以来、テニスへの憧れを強く抱くようになるものの、両親の反対でラケットすら買ってもらえない日々が続いていた。そんな彼女がようやく高校からテニスを始めることが可能となった時に、偶然にも同じクラスの隣の席に座っていた猛と再会するのだが、既に猛は怪我でテニスを続けることを諦めてしまっていた。物語はこの二人を軸とした恋愛劇に、それぞれのテニスへの想いが絡み合う形で展開していくことになる。
 物語の初期設定は『しゃにむにGO』の男女逆版のようにも思えるのだが、最大の違いは太宰府西高校にテニス部自体が存在しないこと。故に、初心者のあげはの基礎練習と同時にテニス部を設立するために5人の仲間を集めつつ、更にテニスに悪印象を抱くあげはの父親を説得するという三つのミッションを並行して進めることになる。
 これらの展開自体はスポ根としてはどれも王道で、面白く展開出来そうな要素ではあるのだが、結局、それぞれの課題が短期間であっさりと解決されてしまうため、どこか消化不良な印象が残ってしまう。もう少しじっくり描けばもっと盛り上がったと思うのだが、恋愛以外の展開に多くの話数を割くことは今の少コミでは許されないのだろうか。
 個人的には絵柄はかなり好みだし、テニス描写に関しても、ラケットやネットなどの小道具の描き込みは丁寧で、コート上の様々な角度からの視点を交えたコマ構成も悪くない。また、高校テニスの強豪地区である福岡を舞台として、その土地柄が物語に反映されている(しかも、柳川高校がモデルのライバル校も登場する)点も、テニスファンとしての私のツボをくすぐる好ポイントだったので、せっかくの好素材を生かしきれないまま(肝心の県大会すら無理矢理割愛する形で)終わってしまったのは、非常に残念である。