佐々木倫子「テニスと骨」(『チャンネルはそのまま』第1巻収録)

チャンネルはそのまま! 1―HHTV北海道★テレビ (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

チャンネルはそのまま! 1―HHTV北海道★テレビ (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

単行本:小学館ビッグコミックススペシャル(2009年) 『チャンネルはそのまま』第1巻


 『動物のお医者さん』『おたんこナース』『HEAVEN?』などで有名な佐々木倫子(のりこ)が、最新作『チャンネルはそのまま』の第1巻の巻末に描いた5頁のエッセイ漫画(表題には「おまけ漫画」とも併記されている)。果たしてこれを独立作品として取り上げて良いのかどうか、非常に難しい問題ではあるのだが、内容的には『チャンネルはそのまま』とはほぼ全く関係ないので、描き下ろし短編作品としてここでは紹介する。
 主人公は、本作品(というか単行本全体)の作者である佐々木倫子。運動不足の彼女を心配した友人が、「Wii Sports」を彼女に貸そうとするところから物語は始まる。その後は、嫌々ながらもとりあえず「テニス」を始めることにした彼女が、必要もないのに狭い部屋の中を走り回りながらWiiリモコンを振り回し、身体をソファやテーブルや証明にぶつけながら悪戦苦闘していく姿が描かれることになる。
 上記の通り、ここで取り上げられているのは「Wii Sports」の中のテニスであって、本物のテニスではない(その意味でも、ここで取り上げて良いか微妙な題材ではある)。だが、Wii慣れしていない作者は、あたかも実際にテニスコートでプレイしているかのごとく「無駄にリアルな動き」を繰り返しており、その動作の描き方などは、一般的な漫画作品におけるテニスの場面と見比べても遜色のないクォリティである。
 そして、かつてファミコンの「F1レース」(もしくはSFCの「F ZERO」)でカーブの場面に差し掛かる度に身体を傾けて、友人達に馬鹿にされていた私としては、そんな彼女の「無駄にリアルな動き」にちょっと親近感が湧いた。というか、初めての時に無駄な動きが多くなってしまうのは、別にゲームに限らず全ての事柄に言えることだよね。
 管見の限りにおいて、いわゆる「バーチャルな世界のテニス」を取り扱った漫画作品はまだ殆ど存在せず、その意味でもこの作品はテニス漫画史上極めて貴重な内容であることは間違いない。ちなみに、最後の最後で一応、本作品が掲載された単行本の表題作である『チャンネルはそのまま!』に引っ掛けたオチが用意されているのであるが、この点に関しては、さすがにヒットメーカーとしての作者のセンスが感じられた。