高口里純『トロピカル半次郎』

高口里純自選名作集 (8) (双葉文庫―名作シリーズ)

高口里純自選名作集 (8) (双葉文庫―名作シリーズ)

連載:『LaLa』(1979〜1981年)
単行本:白泉社花とゆめコミックス(1980〜1982年) 全3巻
    角川書店あすかコミックス(1988年) 全2巻
    双葉文庫 名作シリーズ(2000年) 全2巻


 『』の作者でもある高口里純の最初期の連載作品。単行本は全3巻で発行され、各巻の最後には、デビュー作「赤いシャッポ」などの短編作品も収録。速筆・多作で有名な作者は、現在も『ななひかり』(Chara)、『骨まで愛して』(Chara Selection)、『獣の条件』(漫's プレイボーイ)、『いぬ・ネコ・女子高生』(タダコミ)を同時連載するなど、精力的に活動中。
 主人公は、立花高校に務める長髪美形の数学教師・新田半次郎。冷静なサディストとして、学生に畏れられる教師を目指している半次郎だが、彼を慕うハイテンション少女・瀬戸内海(せとうち・うみ)と、その友人で生徒会長の吐井(とい)とるすには彼の威厳は全く通じず、いつもこの二人にペースを乱されてしまう。この三人を軸とした学園コメディが物語の軸となる。
 そして本編の第2話では「半次郎vsとるす」のテニス対決が数頁にわたって描かれるのであるが、実質的には半次郎の「一人隠し芸大会」とでも呼ぶべき様々な謎ポーズ(「必殺リカちゃんプール哀愁の平泳ぎ打ち」など)が描かれる程度で、「試合としてのテニス」にはなっていない。また、本作品中では様々な他作品のパロディが登場するが、その中の一つとして、第5話で唐突に『エースをねらえ!』のパロディ・ネタが登場する場面もある。
 この人は、同じ流麗な絵柄でシリアスもコメディも描いてしまうところが凄い。特に第1巻末の「赤いシャッポ」とのギャップには、実に不思議な気分にさせてしまう。基本的には、何も考えずに勢いで読ませるタイプのコメディなので、当初は私も面食らったが、読み続けていくうちに、この独特のテンぽに引き込まれていく。まぁ、あくまで時代性を考慮した上で読むことが出来る人向けの作品ではあるけどね、今となっては。
 ちなみに、個人的なお気に入りは、セミレギュラー的に脈絡なく登場する尼僧さん。徹底した無表情の彼女のボケは、読んでて一番心地良い。