竹本みつる「涙のマッチポイント」

初出:『別冊小女コミック』(1970年)
単行本:未発売


 1960年代から少女漫画界で活躍する大御所・竹本みつるが、『別冊小女コミック』1970年7月号に描いた短編作品。時代的には、少コミ本誌で『スマッシュ!スマッシュ!』の連載が始まる直前の時期に相当する。竹本みつるはその後、学習漫画の世界を中心に数多くの作品を残すことになる。
 主人公は、ロイヤルテニスクラブに通うテニス少女・岬和美。彼女の姉・千晶は、かつて丸山中学テニス部のエースであったが、交通事故で足を骨折して、引退を余儀なくされた。その後、丸山中時代のライバルだった一ノ瀬洋子が「電撃スマッシュ」を武器にジュニア選手の頂点に立ったのに触発された千晶は、和美に一ノ瀬打倒の希望を託す。
 当初、和美は自分が一ノ瀬に太刀打ち出来る実力などある筈がないと決めつけ、千晶の期待を迷惑に感じていたのだが、やがて一ノ瀬打倒の秘策があることを知り、その一縷の可能性に賭けていくことになる。
 少女スポーツ漫画の黎明期に位置づけられる作品であるが、恋愛対象となる男性が一切出てこないなど、かなり硬派な内容であり、少年漫画における60年代スポ根の様式をそのまま少女漫画の絵で描いたような作風である。
 この時代のテニス漫画にしてはフォームもきっちり描けているし、戦術的な説明も加えられているので、テニス漫画愛好家としては非常に好感が持てる。この辺りのスポーツ描写に対する真摯な姿勢が、その後の時代において学習漫画の世界で重宝されることになった一つの要因なのであろう。
 ただ、いかんせん頁数が足りなすぎる。最後の結末はあまりに唐突であるし、和美と千晶の確執の行方など、まともに結論が描かれぬまま強引に終わらせてしまった感が否めない。もう少し頁数があれば、もっと掘り下げて面白い話になったと思うのだが、それが許されなかったあたりが、この時代の「テニス漫画」の雑誌内ポジションとしての限界だったのかもしれない。