灘しげみ「白球のライバル」

連載：『中学一年コース』（1974〜1975年）
単行本：未発売

　『燃えよ！スマッシュ』などの作者であるテニス漫画創成期のパイオニアの一人・灘しげみが、同作品の一年前（1974年度）に同じ『中学一年コース』で一年間連載していた作品。残念ながら単行本化はされていない。
　主人公は、山奥のド田舎から都会の藤岡中学に転校してきた、一年生の山川美々。女子とは思えぬほどの腕力と脚力を兼ね備えた美々は、テニス部の槇信矢にその潜在能力を見出され、同部への入部を請われるが、信矢の幼馴染みで美々の同級生の椿令子は、ガサツな美々の入部を「テニスの品位を落とす」と言って反対し、美々の入部を賭けて彼女と試合することになる。
　美々は典型的な田舎弁キャラであり、黒髪ツインテールをなびかせて走るその姿は「野うさぎ」と信矢に形容される。一方、令子はベタ無し縦ロール髪のお嬢様キャラであり、その対比は非常に明快である。美々は当初は全くテニスに興味を示さなかったのだが、令子との試合を通じてテニスの面白さに目覚め、信矢の協力もあって徐々にその才能を開花させていく。その過程の描写はシンプルながらも実践的で、学習雑誌のスポーツ漫画に相応しい。
　一方で、美々・令子・信矢の三角関係や、美々の親友（？）であるカエルのケロちゃんの繰り出す「カエル駄洒落」などのコメディ要素も盛り込まれている訳だが、主軸はあくまでテニスに置かれているため、物語が散漫になることなく、綺麗にまとまっているのも好印象。惜しむらくは最後の展開が唐突すぎる点だが、頁数の都合も考えれば、それはやむなきことであろう。
　また、美々がパワー主体の選手である点は、同時期に少コミで描いていた『コートの嵐』とも共通する。一方、この翌年に描いた『燃えよ！スマッシュ』では、逆に虚弱体質少女が主人公となっている訳だが、個人的には本作品のようなワイルド系主人公の方が、この人の作風に合っていると思う。それだけに、単行本化されずに終わってしまったことが非常に惜しい。