さかぐち直美「恋のラブオール」

連載：『中学一年コース』（1979〜1980年）
単行本：未発売

　『学研まんが人物日本史』シリーズなどの学習漫画で活躍したさかぐち直美が、1979年度版の『中学一年コース』にて一年間連載した作品。作者は本作品以前にも同誌の中で3本のテニス漫画を描いている（本日の雑記参照）。
　主人公は、名門の聖星学園中学テニス部の一年生・早瀬水希。全くの素人で、ようやく実践練習を始めたばかりの彼女が、新卒教員でテニス部顧問に就任したばかりの浅野満に、その素質を見出されるところから物語は始まる。浅野は水希の持つ母親譲りのラケットに対して奇妙な反応を示して以来、個人的に水希に対して好意的な態度を取り続けるのであるが、女子のエース・佐伯忍はそんな水希の特別待遇が気に入らない。そこに佐伯の恋人でテニス部主将の菅谷や、聖星学園に転校してきた三年生の滝賢二といった面々を加えた、エース争いと恋の駆け引きの物語が展開されることになる。
　絵は典型的な70年代後半の少女漫画の画風であり、その中でも上手い部類だと思う私は思う。また、テニスのフォームなどの描写も同時代のテニス漫画と比べて遜色ない。ただ、同じ中一コースで描かれた灘しげみの作品群のような詳しい技術論や魔球の開発といった展開には至らず、あくまでも恋愛劇を中心とした人間関係の描写の方が物語の中心軸となっている。
　また、途中で登場する他校のライバル達の描写も極めて淡白であり、基本的に物語は聖星のテニス部内で完結している。その意味でも「テニス漫画」としてよりは「テニス部漫画」として評価すべき作品であろう。そして実際、主要人物5人の心理の推移の描写は（テンプレ通りではあるが）テンポよく分かりやすく描かれており、テニス部漫画としては非常に読みやすい。
　個人的には、主人公の友人で、いわゆる「マキちゃん」ポジションの白井知子の（途中で明らかになる）「意外なしたたかさ」が、ちょっとツボだったかな。あの立場で逆に主導権を握れるのは、なかなか凄いと思うわ。