一条ゆかり『それすらも日々の果て』
- 作者: 一条ゆかり
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 1998/11/18
- メディア: 文庫
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単行本:集英社りぼんマスコットコミックス(1985年) 全1巻
集英社文庫コミック版(1991年) 全1巻
『有閑倶楽部』『デザイナー』『砂の城』などで有名な集英社の大御所・一条ゆかりが、『りぼんオリジナル』にて3回にわたって描いた作品。現在の作者は『有閑倶楽部』の続編を『コーラス』に移籍して連載中。
主人公は、大学一年生の小杉由衣子。テニス部の先輩の今泉崇と交際している彼女であるが、彼に対して「ステキ」という感情はあっても、キス以上の関係にまで踏み出すことが出来ずにいた。そんな彼女の前に、音楽プロデューサーの小原慎一郎が現れるところから物語は始まる。彼は由衣子のバイト先の画廊のオーナーの夫であり、最初は二人の醸し出す「おとなの雰囲気」に単純な憧れを抱いていた彼女であるが、そんな二人を見ている間に、徐々に彼女の中での恋愛観に変化が生じていくことになる。
テーマ自体は「大人になりきれない大学生の少女の成長」という、比較的ありふれた内容ではあるが、物語を彩る演出や台詞回しの一つ一つが非常に印象的。時代的には30年近く前の作品だが、そのセンスは今読んでも違和感がないほどに洗練されている(と言っても、私自身のセンスがおそらく古いので、若い人々にも受け入れられるかどうかは分からないが)。
テニス描写に関しては、残念ながら由衣子や崇の「テニス部」という設定は本編では全く生かされず、ラケットもボールもテニスウェアも登場することはなく、「大学テニス=男女の出会いの場」という一般的なイメージをそのまま具現化するための記号以上の意味は存在しない。
最大の見所は、やはり「物腰柔らかな大人のプレイボーイ」としての小原の存在である。彼に魅力を感じられるかどうかで、この作品への評価は大きく変わることになるだろう。ラストに関して「やっぱり、そういう形で収まるのか」というのが私の正直な感想だが、そこに至るまでの経緯の描き方は非常に上手い。確かに、こういう身勝手な男に惹かれる女の子って、多いんだよなぁ。