灘しげみ「青春コート」

連載:『中学一年コース』(1973〜1974年)
単行本:未発売


 1970年代におけるテニス漫画の第一人者の一人である灘しげみが、1973年度の『中学一年コース』にて一年間にわたって描かれたテニス漫画。本作品を皮切りにして、翌年以降、「白球のライバル」『燃えよ!スマッシュ』『コートの嵐』などの名作テニス漫画を次々と生み出していくことになる。
 主人公は、海星中学の一年生、飛鳥美鶴(あすか・みつる)。彼女は犬が苦手で、下校途中の家で飼われている犬から守ってもらうために、下校時にはいつも、幼なじみでテニス部の二年生の圭(けい)と一緒に帰っている。そんな彼女が、テニス部の男子キャプテン・影山に偶然その才能を見出され、彼から愛用のラケットを受け取り、テニス部へと入部することになる。
 影山は中学男子テニス界最強の選手であるが、この物語の中では「団体戦」が「男子シングルス・女子シングルス・混合ダブルス」の3本勝負でおこなわれる制度であり、混合ダブルスで勝つための人材として美鶴を特訓し、その過程の中で、彼女は独自の「魔球」を生み出すことになる。
 時代的には『エースをねらえ!』の連載開始の数ヶ月後に始まった作品であり、同作品が「魔球」という存在を否定することで従来のスポ根とは異なる世界を切り開いたのに対し、こちらは上述の通り、王道の魔球路線を貫いている。さすがにその後の灘作品に比べるとテニス描写は所々荒く、中途半端にロジカルな魔球説明を入れたことでかえって陳腐な印象を与えてしまった感もあるが、少女スポ根漫画としてのアツい魂は十分に感じられる。
 一方で、個人的にはこの漫画において描かれる「ささやかな恋愛劇」が、ちょっとお気に入り。同時代のオスカル・アンドレ・フェルゼンを彷彿させる人間関係(一応、アントワネット的人物も少し登場する)は、あくまで副菜的描写でありながら、その結末を巡って最後までヤキモキさせられる。スポーツ漫画における恋愛の位置づけは、これくらいがちょうどいいな。