津雲むつみ『風の輪舞(ロンド)』

風の輪舞(上) (コミックス)

風の輪舞(上) (コミックス)

連載:『YOU』(1988〜1990年)
単行本:集英社YOUコミックスデラックス 全6巻(1988〜1990年)
    集英社YOU SPECIAL EDITION 上下巻(1991年)
    集英社YOUコミックスデラックス(新編) 全5巻(1995年)
    集英社YOU漫画文庫 上中下巻(1999年)
    集英社ガールズリミックス 上中下巻(2003年)


 レディースコミック界の第一人者の一人である津雲むつみが『YOU』にて描いた代表作。1995年と2003年にドラマ化され、「恋愛ドロドロ昼ドラ」の代名詞的存在となる。現在の作者は同誌にて『暁の海を征け』を連載中。
 主人公は、大富豪・野代辰吉の孫娘で、雑誌社に勤める野代夏生(のしろ・なつお)。第1話は、昭和47年の夏、妻子ある作家・矢崎繁と不倫関係にあった24歳の彼女が、死の床に瀕していた祖父・辰吉の見舞いに訪れた病院で、かつての恋人である従兄の英明と再会する場面から始まる。
 その後、第2話以降の物語の舞台は夏生が小学六年生だった時代まで遡り、彼女が英明と出会い、恋に落ち、それが親世代の因縁によって破局へと追い込まれていく過程が描かれる。そして再び舞台は昭和47年へと戻り、夏生と英明を軸としたドロドロの恋愛劇を繰り広げつつ、終盤では戦中〜戦後の親世代の時代の物語にまで遡りながら、少しずつ悲劇の全体像が明らかになっていく(ただし、1995年版の単行本では、時系列順に再編集されている)。
 ちなみに、英明の妹・美幸は高校編ではテニス部に所属しているのだが、それは夏生とは対照的に「華やかな青春」を謳歌する彼女の象徴としての設定であると同時に、スコートの下に伸びる美脚を描くことで、夏生が足に対して持つ「あるトラウマ」を強調する役割をも担っている(なお、彼女が主役の番外編も一部の単行本の巻末に収録されている)。また、物語の中盤では夏生の見合い相手の男が趣味の一つとして「テニス」を挙げる場面もあるが、おそらくはこれも「表社会で育ったエリート」の表象なのであろう。
 主人公世代も親世代も、それぞれに己の感情に忠実で、それ故に、ほんの僅かな運命の歯車の食い違いによる悲恋の連鎖が、たたひたすらに哀しい。最後はその哀しい連鎖が次の世代にも受け継がれる可能性を仄めかした、なんとも不思議な余韻を残して幕を閉じており、そこもまた非常に印象深い。