中条比紗也『花ざかりの君たちへ』

花ざかりの君たちへ (9) (花とゆめCOMICS)

花ざかりの君たちへ (9) (花とゆめCOMICS)

連載:『花とゆめ』(1996〜2004年)
単行本:白泉社花とゆめコミックス(1996〜2004年)
    白泉社花とゆめコミックス愛蔵版(2007年)


 DSゲーム「DUEL LOVE」のキャラデザイナーとしても有名な中条比紗也が『花とゆめ』で描いた代表作。連載中にドラマCD化を果たした他、2006年には台湾で、2007年には日本でもドラマ化され、それに合わせて本編終了後の特別編も描かれた。
 主人公は、アメリカ育ちの少女・芦屋瑞稀。雑誌で見つけた同い年の男子高校生の走り高跳び選手・佐野泉に憧れた瑞稀が、彼に近付くために、彼が通う男子校の桜咲(おおさか)学園に男装して転入するところから物語は始まる。当初は友達として佐野と仲良くなることだけを望んでいた瑞稀だが、徐々に女性として彼に惹かれていく自分を自覚し、周囲にその正体を隠しながら、試行錯誤の学生生活を送ることになる。
 いかにも花ゆめ的な華やな青春物語であり、基本は瑞稀と佐野の恋愛劇&それぞれの家族との絆がメインだが、もう一人の主要人物であるサッカー部の中津秀一を初めとする個性豊かな男子生徒達によるコメディ要素も印象深い。また、当時の時事ネタ(特に芸能ネタ)が多いのも、ちょっと懐かしくて面白い。
 ちなみに、桜咲学園の寮は、第一寮が体育会系、第三寮が文科部系、そして瑞稀が住む第二寮は両系統の生徒が混在する寮なのであるが、その中の第一寮の一員として、テニス部主将・嵯峨和馬(さが・かずま)という人物が第9巻で登場する。出番自体は極少だが、彼は「ガラが悪くて、教師に目をつけられている生徒」という、およそテニス部主将としては似つかわしくない設定が組み込まれており、その点がなかなか新鮮な印象であった。
 正直、色々と物語的には無理があると思うし、描写不足でよく分からない展開が多いことも事実だが、この手の作品に対してそんな些細な欠点をイチイチあげつらうのも野暮であろう。肝心なのは物語としての完成度云々ではなく、「好き」か「嫌い」かであり、その意味では、男装少女が出てくるだけで無条件に飛びついてしまう私が本作品を客観的に評価出来る筈もない。