武論尊(原作)/弓月光(漫画)『ホールドアップ!』

連載:『週刊マーガレット』(1981〜1982年)
単行本:集英社マーガレットコミックス(1982年)


 『北斗の拳』『ドーベルマン刑事』の原作者として有名な武論尊と、『おたすけ人走る』『みんなあげちゃう』の作者・弓月光が『週刊マーガレット』にて描いた作品。近年の両者は主に青年誌を中心に活動しており、前者は『覇-LORD-』(作画:池上遼一)、後者は『甘い生活』などを連載中。
 主人公は、婦人警官の三崎ないると鈴村詩織。幼馴染みで、親世代からのライバルでもある彼女達が、警察学校を卒業する場面から物語は始まる。三崎は高校時代のテニス部合宿で出会った渋谷署の刑事・沖島康彦に近付くために警官を志すことになったのだが、詩織もまた彼に対して強い憧れを抱いており、渋谷署に配置された後も、二人は激しい火花を散らすことになる。
 基本的には、ボーイッシュな三崎・フェミニンな鈴村・イケメンな沖島の三人を軸としたラブコメなのだが、その表現は少女漫画としては非常に過激で、中盤以降は通常の警察の装備を超えた銃器・兵器が次々と登場する。自衛隊出身の武論尊が原作者ということもあり、それらの描写は実にリアルであるが、本来の警察官に使用が許される筈がないこれらの兵器が次々と登場する辺りからも分かる通り、相当にぶっ飛んだドタバタ劇である。
 テニス要素に関しては、残念ながら序盤の回想シーンのみで、本格的な描写と言えるコマは特にない。あくまで「色男」の記号としての「テニス・コーチ」という設定なのだが、この作品が描かれた時代を考えれば、既に古典として様式化されつつあるレベルの「お約束設定」と言えよう。
 正直、こんな作品が『週刊マーガレット』に掲載されていたという事実が、現代の少女漫画界からは想像出来ない。ミリタリー要素もあれば、お色気演出も多く、どちらかと言えば『月刊少年ジャンプ』あたりで連載した方が人気が出そうな作品だと思うのだが、そんな作品でも載せてしまう辺りが、当時の少女漫画界の懐の深さを象徴しているとも言えよう。