後藤隼平『銀塩少年(ゼラチンボーイ)』

銀塩少年 1 (少年サンデーコミックス)

銀塩少年 1 (少年サンデーコミックス)

連載:『クラブサンデー』『少年サンデー超』(2009年)
単行本:小学館少年サンデーコミックス(2009〜2011年) 全4巻


 『少年サンデー』と連動したウェブコミック配信サイト『クラブサンデー』において連載開始され、後に『少年サンデー超』にも掲載されることになった作品。作者の後藤隼平にとっては、本作品が初の連載作品となる。
 主人公は高校一年生の少年・時田瞬(マタタキ)。子供の頃から写真が好きで、銀塩写真部にも所属している彼だが、彼が写真を撮り続ける動機は、幼馴染みの少女・ミライに見せたい、という一心のみであった。だが、そんな彼が偶然に「ミライと別の男性とのキスシーン」と「自分の死」という、謎の「未来写真」を撮ってしまったことを契機に、運命が大きく動き出す。
 彼のカメラが写す「未来写真」の意味は何なのか、そして彼とミライの運命はどうなるのか、という疑問を抱きながら、マタタキは様々な試行錯誤を続けることになる。なお、今回はあえてネタバレさせてもらうが、未来写真の発生の原理・構造は、最後まで解き明かされることはない。故に、その点に関するSF的な謎解きを期待して読むと、やや肩すかしを食らう事になる。
 しかし、本作品の魅力は、この特殊な設定そのものではなく、その特殊な環境下において、一途にミライを思い続けるマタタキの純情さと、彼に対して複雑な想いを抱き続けるミライの心情が絡み合う、不器用であるが故にもどかしい恋模様にある。特に、あまりにも純粋すぎるマタタキの悩み苦しむ姿には、一種の苛立を感じつつも、応援せざるを得ない心境にさせられる。
 一方、そんなマタタキと対極に置かれるのが、彼の恋敵として登場する高校のOBの幸田という男である。常に「穏やかな上から目線」で、自分こそがミライの相手に相応しいと主張し続ける彼は、「地味な趣味」としての「銀塩写真」の対極として、「プロテニス選手」という「華やかな成功者」として登場する。なお、テニス自体の描写は殆どないが、プロテニス選手が恋敵として登場する少年漫画は意外に少なく、その点では実に印象的であった。