藍本松『保健室の死神』

保健室の死神 5 (ジャンプコミックス)

保健室の死神 5 (ジャンプコミックス)

連載:『週刊少年ジャンプ』(2009〜2011年)
単行本:集英社ジャンプコミックス(2010〜2011年) 全10巻


 『MUDDY』の作者でもある藍本松(あいもと・しょう)が、同作品に続いて『週刊少年ジャンプ』に掲載した二番目の連載作品。2011年には「サキよみジャンBANG!」にてVomic(ヴォイスコミック)化も果たした。
 主人公は、常伏中学校の養護教員の派出須逸人(通称:ハデス先生)。彼は頬の皮膚にヒビが入った顔面の持ち主である上に、口下手でKYな性格のため、多くの生徒達からは気味悪がられているが、校内の生徒達を初めとする様々な人々の精神と身体に宿る「病魔」と呼ばれる存在を「咀嚼」する力の持ち主であり、病魔に犯された人々を救うため、日夜影で戦い続けている。
 彼の力の源は、彼自身の身体に宿る「病魔」の力であり、その意味では『地獄先生ぬ〜べ〜』を想起させる設定だが、同作品では「子供達を守るヒーロー」の側面を強調しているのに対し、本作品におけるハデスは病魔の力を取り入れることで人格の一部が破綻しているため、彼がその力で生徒達を助ける一方で、生徒達との交流を経て少しずつ彼自身も救われていくという、双方向の救済関係が描かれている点が特徴として挙げられる。
 また、全体的に「バトル」に相当する「咀嚼」の描写が簡素で、その分、そこに至るまでの話に多くの頁数が描かれており、一般的なジャンプ作品とは一線を画している(ただし、終盤はバトルの割合が増える)。それに加えて、話の区切り方やオチのタイミングが独特なため、慣れるまでは少し読みにくいかもしれないが、それもそれで独特の味があり、私は嫌いではない。
 そして本作品の最大の魅力は、登場人物達がとにかく魅力的ということであり、その一人として、第5巻収録の第35話では、テニス部の蝶間林という女生徒が登場する。彼女は典型的な「テニス部の高飛車ヒロイン」的なキャラで、「名前付きの必殺技」を繰り出す人物なのであるが、この設定が物語内でどう生かされているか、ぜひ実際に本作品を読んで確かめてみてほしい。