神戸さくみ『龍一くんライブ』

連載:『週刊少年キング』(1980〜1982年)
単行本:少年画報社ヒットコミックス(1981〜1982年)


 『週刊少年キング』の末期を支えた人気作品の一つ。作者の神戸さくみにとっては事実上の最大のヒット作であり、本作品の完結(形式的には「第一部・完」)以降は小学館の青年誌・女性誌へと活躍の場を広げていく。
 主人公は、お調子者で女好きの高校生・坂本龍一。友人の猿渡寿史と共にスケ番達にカツアゲされていたところを、偶然通りかかった不良少女・宇都宮すばるに助けられる場面から物語は始まる。その後、すばるの親友の尾花沢笑(おばなざわ・えみ)と共に喫茶店に立ち寄った彼等は意気投合し、やがてこの四人を中心とした様々な恋愛模様が展開されることになる。
 作者は、当時の少年誌では珍しい女流作家であり、少年少女の双方の視点から、思春期の不器用な恋愛感情の共鳴とすれ違いの連鎖を丁寧に描いている。シリアスな場面では淡い画風で少女漫画的なモノローグなどを多用しつつ、コミカルな場面はギャグ調にデフォルメされたタッチを用いており、そのテンポの切り替わりが独特のリズムを作り出している。
 そして、本作品の冒頭では、龍一が「すずしいから」という理由でテニスウェアで草野球をしている一方で、中盤以降ではすばる達が体操着姿でテニスをする場面が描かれている。普通の漫画ならば、女子にこそ必然性のない場面でも(読者サービスとして)テニスウェアを着せるのが通例であり、このような形で「テニス」という記号を挿入する手法は、やや珍しいと思う。
 恋愛漫画の面白さの肝はキャラの魅力であり、その意味で、ヒロインのすばるは、大人びていながらも純粋で、冷静を装いながらも多感な一面を隠し持つ、実に深みのある魅力的な美少女なのだが、主人公の龍一が、すばるへの独占欲を明示しつつも自分は公然と他の美少女達にも手を出そうとするなど、どうにも身勝手すぎて、私は今ひとつ感情移入出来ない。もっとも、そんな矛盾に満ちた身勝手さもまた、青春の一つの象徴なのかもしれないが。