柴田昌弘「パル」(『別冊デュオ 柴田昌弘の世界』収録)
初出:『別冊デュオ 柴田昌弘の世界』(1979年)
単行本:未発売
『魔法のラケット』の作者でもあるSF漫画家の柴田昌弘が、デビュー前の1973年に『別冊マーガレット』の少女漫画スクールに投稿して佳作となった短編漫画。その時点では雑誌上で発表されることはなく、1979年に朝日ソノラマの『デュオ』の別冊として発行された『柴田昌弘の世界』で初めて掲載されたという、珍しい経歴の作品。
主人公は、県立北高校の女子生徒・沢井杏子。物語は、彼女の母親らしき人物と同校の教師が、彼女の過去に関する深刻な話をしている場面から始まる。そして舞台は三日後の体育の時間へと移り、テニスの初心者である筈の彼女が、その教師の指名で女子テニス部のキャプテンである小林と打ち合うことを命じられる。一見すると全く手が出ないように見えた沢井だが、小林は彼女の動きの不自然さを見抜き、本気を出すように挑発する、という展開が描かれる。
「パル(pal)」とは英語で「仲間」の意味であり、本作品における重要なテーマであるのだが、本編を通じて「パル」という単語が登場することは一度も無い。その意味で、小中学生にはやや分かりにくいタイトルと言えよう。他にも全体的にやや説明不足な箇所が多く、率直に言って「読みにくさ」が目立つ。全体的にもテーマが詰め込みすぎで、ラストも中途半端なので、やはりデビュー前故の粗さが残る内容と言えよう。
物語のテーマ自体はテニス漫画の王道的であり、もう少し頁数をかけて描き直せば、かなり面白くなりそうな題材に思えるのだが、結果的に作者はこのような王道スポコンの道には向かわずに、全く異なるSF少女漫画家としての独自路線を開拓したことを考えると、作者としては無理をして描いていた内容なのかもしれない、という気もする。
しかし、テニス描写自体に関しては(1973年という時代性を考えれば)新人とは思えぬレベルの画力であり、同時代の別マのスポーツ漫画と比べても遜色ない。だからこそ、その後の『魔法のラケット』も生まれたのだろうが、結局その後、上記の通り別の道に進んでしまったことは、テニス漫画愛好家としては、やや勿体ないようにも思える。