森素子『探偵は笑わない』

探偵は笑わない (5) オンデマンド版 [コミック] (フラワーコミックス)

探偵は笑わない (5) オンデマンド版 [コミック] (フラワーコミックス)

連載:『プチコミック』(1991〜1995年)
単行本:小学館プチフラワーコミックス(1992〜1996年) 全12巻


 『甘くみんなよ!』や『魂に火をつけろ』などで有名な森素子の小学館時代の代表作の一つ。ちなみに、本作品の主人公・八奈巳武(やなみ・たけし)は、元来は短編作品「やすらかに眠れ」(『森素子傑作集2』の表題作)にも登場している。近年の作者は、宙出版からハーレクイン原作の作品『オフィスのシンデレラ』などを発表するなど、更に活動の幅を広げつつある。
 元検事で探偵業を営む長身の美青年・八奈巳武と、その恋人で弁護士の麻生伊織、そして八奈巳と深く関わるゲイの大学生・岩城杜也(もりや)といった面々が繰り広げる探偵物語。そして、このレビューで対象となるのは、第五巻に収録されている「Bet(賭け)」というエピソードである(ちなみに、この回に杜也は登場しない)。
 物語は、22才にしてATPランキング29位の座に到達した日本テニス界期待の星・野村高文のマネージャーが、八奈巳の探偵事務所を訪れるところから始まる。今年中にランキング15位以内に入れると噂されながら、突如、「テニスをやめる」と言い出した高文の真意を探るため、八奈見はマネージャーの代理と称して高文に近付くことになる。
 まぁ、このエピソードの筋書き自体はさほど目新しい内容ではないのだが、八奈巳を初めとする登場人物達の台詞回しが中々に軽快かつ味わい深く、探偵漫画としては非常に読みやすい作品に仕上がっている。
 正直、テニスの場面自体は殆ど無いので、テニス漫画として期待出来る要素はあまり無いが、スポーツを題材としたミステリー漫画としては王道の展開であり、コミック作品におけるスポーツの位置付けを考える上での一つの参考資料にはなると言えよう。
 一応、『プチコミック』は「20才以上の女性が読む少女漫画」をコンセプトにしている雑誌なので、この時代の作品にしてはややアダルトな展開を連想させる場面も時折存在するが、描写自体はさほど露骨ではないので、比較的誰でも抵抗無く読める内容と言えよう。個人的には、八奈巳と伊織のイチャつく場面などは、まさに少女漫画とレディコミの境目と呼ぶべき描写法ではないかと思う。