すずき真弓「ラケットに命を!」

連載:『週刊少女コミック』(1970年)
単行本:未発売

 1971年にアニメ化された『さすらいの太陽』(原作:藤川桂介)で有名なすずき真弓が、『週刊少女コミック』1970年第12号に描いた短編作品。作者は1970年代初頭の同誌で活躍した漫画家であり、他の代表作としては『麻衣子』『ビューティフル亜子』など。少コミのテニス漫画史においては、「プレイ!テニス」(百田てるよ)と「スマッシュ! スマッシュ!」(すなこ育子)の連載期間の狭間の時期にあたる。
 主人公は、葉沢高校から日南高校へと転校してきた、前年度の高校テニス選抜大会優勝者の露崎亜美。日南高校には、同じ去年の大会で男子部の優勝者となった湯口が在籍しており、亜美は湯口とダブルスを組むために転校してきたのだが、同校の女子部には、彗星のごとく現れた天才少女・吉川かすみが湯口のダブルス候補として名乗りを上げており、ダブルス出場枠を巡る二人の戦いが繰り広げられることになる。
 高速トップスピンを武器とするかすみに対し、亜美は守備に長けた持久戦型の選手として描かれており、二人の対決は(少なくともこの時代の少女漫画としては)非常に見応えのある内容となっている。ただし、実は亜美はそのプレイスタイルにとって致命的な「弱点」を抱えており、そこが本作品における一つの核を成している。
 ちなみに、日南高校は宮崎県に実在する高校の名前なのだが、それが本作品の舞台のモデルなのかは不明(「葉沢高校」の方は分からなかった)。ただ、作中で頻繁に取り上げられる高校テニス選抜大会は福岡でおこなわれるので、(全国どの学校からでも参加は可能なのだが)舞台として九州が想定されていた可能性はある(ただし、現実の高校テニスの公式大会には混合ダブルス枠は存在しない)。
 物語全体としては、亜美、かすみ、湯口の三方向からのモノローグが交差する形で描かれており、それぞれの視点が交差する形の演出がなかなか面白い。ただ、ラストに関しては、読み終えた時に「え? この展開なのに、その終わり方でいいの?」と思わされた。まぁ、これはこれで読後感は悪くないので、アリと言えばアリか。