たがみよしひさ『我が名は狼(うるふ)』

我が名は狼(うるふ) (1) (秋田文庫)

我が名は狼(うるふ) (1) (秋田文庫)

連載:『ヤングチャンピオン』『プレイコミック』(1982-1983年)
単行本:秋田書店プレイコミックス(1983-1985年) 全3巻
    秋田書店プレイコミックシリーズスペシャル(1987年) 上下巻
    秋田書店秋田文庫(1997-1998年)全2巻


 『軽井沢シンドローム』や『NERVOUS BREAKDOWN』などで有名なたがみよしひさの初期の代表作の一つ。当初は『ヤングチャンピオン』で連載されたが、同誌の一時休刊に伴い連載がひとまず終了し、その後、『プレイコミック』にて続編が描かれた(故に旧単行本には「1巻」の表記がなく、その時点では「全1巻」扱いとなっている)。ちなみに、「ゲーム・オーバー」や『ラスト・シーン』の小山田いくは実兄。
 主人公は、21歳の長髪の風来坊・犬神内記(通称:狼-うるふ-)。彼が父親の親友・高梨宗国の経営する長野県の野枝高原のペンション「たかなし」を訪れるところから、物語は始まる。女好きの狼は「たかなし」の居候として、高梨の娘で従業員でもある誠・静・聖の三姉妹と様々な形で関わりつつ、毎回ゲストとして登場する様々な女性客達と性的な関係を結んでいくことになる。
 登場する女性客の大半は何らかのトラウマの持ち主であるが、彼女達は狼との会話を通じて様々な精神的呪縛から解放され、そのまま狼に惹かれて身体を委ねていく、というのが基本的なパターンである。そして狼自身もまた、女性関係で過去に深いトラウマを負った人物であり、物語の終盤では彼自身の過去の相克を巡るエピソードも描かれていく。
 そして「たかなし」のすぐ隣にはテニスコートが設置されており、第2話「5人目の円(まどか)」と第18話「蒼いテニスウエアの理恵子」では、テニスに興じる聖達と、それぞれのゲストキャラ達が描かれる。この人は同じキャラでも場面ごとにギャグ版(二頭身)とシリアス版(八頭身)を織り交ぜて使う作風なのだが、シリアス版で描かれた時のテニスのフォームの描写は、コマ数は少ないものの実に上手い。
 狼の台詞からは常にどこかシニカルな価値観が滲み出ており、しばしば女性蔑視的な表現を織り交ぜつつも、時に鋭い説得力を伴って読者の心に響き渡る。そんなシリアスなドラマと、オタク的な小ネタが織り交ぜられたコメディ、そして独特のタッチで描かれる美女達のエロス、それらが絶妙なバランスで折り混ざった作品である。基本的に一話完結の話が多くて読み易いので、たがみ作品の入門書としては最適ではないかと私は思う。