浦川まさる「10月には鳥になる」(『いちご金時れもん味』後編収録)

いちご金時れもん味 後編 (りぼんマスコットコミックス)

いちご金時れもん味 後編 (りぼんマスコットコミックス)

連載:『りぼん』(1989年)
単行本:りぼんマスコットコミックス『いちご金時れもん味』後編(1991年)


 『いるかちゃんヨロシク!』の浦川まさるが、同作品終了の三年後に、同じ『りぼん』で描いた短編作品。単行本としては、『いちご金時れもん味』の後編(=第2巻)の巻末に収録。同単行本内には、表代作の番外編である「いちご金時ミルク味」も収録。
 主人公は、中学二年生の少女・秋本由美。以前は三つ編み&眼鏡姿だった彼女が、一週間学校を休んだ直後に、なぜかショート&コンタクトへとイメチェンし、それまでずっと影から憧の目で見るだけの存在であったテニス部のエースである山下哲雄(三年)に、ラブレターを渡そうとするところから物語は始まる。当初はあっさりとフラれてしまった彼女であるが、それでもめげずにアタックを続けようとする彼女に対して、山下の心が少しずつ動かされていくが、しかし、実は彼女のその行動の背景に重大な秘密が隠されていることを、いずれ彼は知ることになる…………という物語。
 『いるかちゃん〜』と比べて本作品で目を引くのは、まず画力の向上である。作者の作品の中では、一般に『いるかちゃん〜』が代表作として圧倒的に高い知名度を誇っているが、ある意味でそれが「荒削りであるが故の魅力」でもあるのに対して、本作品はデッサン力においても構成力においても大きく成長した様子が見受けられる。ただ、一方で洗練されすぎてしまって、同時代の他の作品と比べてインパクトが薄れてしまった、という感が否めないのもまた事実である。
 とはいえ、私個人の趣味としては実は本作品の方が好きだったりする。こちらの方がまだテニス描写が多いからとか、ヒロインの顔が好みだからとか、そういった即物的な理由もあるが、やはり私はこういった80年代風の悲劇漫画には弱いのである(詳細はネタバレになるので省略)。まぁ、「よくある話」と言ってしまえばそれまでなのだが、それでも読了後の私の心に確かな足跡を残したのは確かであり、ある意味でこのような「正統派の少女漫画」を横綱相撲で描けるようになった作者だからこそ、今日に至るまで活躍し続けることが出来ているのだなぁ、とも思う次第である。